マイノリティーな彼との恋愛法
こんな個室空間に詰め込まれたら、息が詰まりそうで嫌だ。
残業が終わらなかったってことにして、やっぱり今日は帰っちゃおう。
月曜日に謝ればいいだけのこと。
また風当たりは強くなるかもしれないけど、それでもこんなくだらない合コンに参加するよりは家でビールを飲んだ方が百倍マシだ。
くるっと身を翻して帰ろうとしたところで、ドンッと正面から誰かにぶつかってしまった。
そのまま倒れそうになったところを、相手が私の腕を掴んでくれたので転ばずに済んだ。
「すみません、大丈夫ですか?」
「あっ、はい。こちらこそ急に方向転換しちゃってごめんなさい」
顔面が相手の肩にぶつかったので、鼻っ柱はツンと痛んだけどそれも一瞬のこと。
声をかけてくれたのが男性の声だったので、ぺこぺこと頭を下げる。
すると、突然ガシッと両肩を彼に掴まれた。
ビックリして顔を上げたら、見覚えのある顔が目の前にあってそれにも驚いた。
厚ぼったい瞼と無気力な目。
その目が何かを見定めるみたいに細められる。ついでに眉も寄せている。
この人は、たしか……。
ぐいっと一気に顔の距離を縮められて、ほんの一瞬だけどキスされるんじゃないかと錯覚してしまうほどにドキッとした。
私よりもだいぶ背の高い彼は、まじまじと観察するように私の顔を眺めると、「あ、やっぱり」と妙に納得したような声を出した。
「この間、俺にぶつかった人だ」
「さっきエレベーターで一緒でしたよね?」
ほぼ同時に口を開いていた。