マイノリティーな彼との恋愛法
「ゲホ、ゴホ」
次の日、私の体調はすこぶる悪かった。
咳が止まらない。寒気もする。体がダルくて目眩がする。
市販の風邪薬を飲んでマスクをして出勤したものの、全く使いものにならないほど私の体は弱っていた。
原因は分かっている。
渚と『酔いどれ都』で飲んだ帰り、雨に当たったのだ。
突然降り出したので傘も持っておらず、買うのももったいない気がして打たれながら走って帰った私。
こんなことになるなら、ケチケチしないで傘を買って帰ればよかった。
「だ、大丈夫ですかぁ?春野さん、絶対風邪引いてますよね?」
「引いてない。ちょっと疲れてるだけ」
風花ちゃんが心配してわざわざデスクまでやって来て、強がる私の額に手を当てる。自分の額と比べて、パッと目を見開いた。
「ちょっと、けっこう熱出てません?これは病院に行かないとマズいレベルですよ!」
大丈夫だってば、と意地を張りながらも自分の体のことは自分がよく分かっているので、限界は感じつつあった。
でも今日が期日の仕事がいくつかあって、それだけは終わらせないと早退もできない。
視線はパソコンの画面に向けたまま、掠れ声でつぶやいた。
「じゃあこの送金処理と、退去者データ打ち込んだら帰る」
……けっこうな量あるから、結局帰れるのは午後になりそうだけど。
止まらない咳に背骨が痛くなってきて、息も絶え絶えにキーボードを叩いていたら。
風花ちゃんが意外なことを申し出てきた。
「それ、私やります!」
「……………………え?」
驚いて顔を上げると、私だけじゃなく他の後輩たちも風花ちゃんに注目していた。
いつも定時で帰りたがる彼女がこんなことを言い出すなんて。ここにいる誰もが想像もしていなかった。
「いいよ、風花ちゃんは自分の仕事もあるでしょ?残業になっちゃうから気にしないで」
「残業する覚悟です!やらせて下さい!……っていうか、こういう時くらい頼りにして下さい!頼りにならないかもしれませんけど」