マイノリティーな彼との恋愛法


彼はようやくそこで私の肩から手を離すと、まだ目を細めたままで合コンで盛り上がる個室を指さした。


「まさか、あなたもここに?」

「はぁ、まぁ。でも今帰ろうかと思って……」


数日前に会社のビルでぶつかっただけの人が、同じ時間に同じ居酒屋に居合わせるなんて不思議な気持ちになった。

それに、この間は作業着を着ていた彼もスーツを着ているとまた違った印象になって面白い。

特徴のない顔は相変わらずだけど、案外スーツは着こなしてるんじゃないかなと思った。身長もあるし、作業着を着ている時よりも姿勢がいいからだろうか。


そんなことを考えている間に、私も彼も動いていないのに引き戸が勢いよく開かれて驚く。
中から風花ちゃんが出てこようとしているところだった。

当然、個室の前にいる私たちに気づくわけで。


「あっ!噂をすれば!春野さん来た〜!」


見つかった……。
バックれる前に見つかってしまった。


私は帰る!と抵抗する暇もなく、ずるずると個室の中へと足を踏み入れるハメになった。


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