マイノリティーな彼との恋愛法
ヤツが買ってきたのは焼肉弁当だった。
病み上がりにはけっこう重いおかずではあるけれど、買ってきてくれた手前ブーブー文句をたれるのは失礼だ。
せっかくシャワーを浴びたっていうのに、彼のせいで汗をかかされたため仕切り直しでもう一度お風呂へ入っていた。
湯船に浸かって、数十分前まで神宮寺くんに触られていた自分の体を見下ろす。
し、し、信じられない。
こんな急展開、ドラマでしか見たことない。
少し前に見た海外ドラマ『マンハッタンより愛をこめて』でだって、こんなに事態が急転することはなかった!
しかも、ヤツはなんて言ってた?
「結婚して下さい」???
そんなバカなーーー!!
ドポンとお湯へ頭を沈めた。
「本気ですよ、結婚」
順番にお風呂に入った私たちは、湯上がりのポカポカした体が冷えないようにエアコンをガンガン効かせたリビングで焼肉弁当を食べていた。
缶ビール(うちの冷蔵庫には常に完備してあるのだ)を手に取ろうとして透かしを食らった神宮寺くんは、やっぱり目は見えていないようだ。
早く彼に新しいメガネが届きますように。どうせ前のやつと似たようなのだろうけど。
なんとか缶を手にしたヤツは「いただきます」とひと口飲んでから、それはそれはまるで当然だと言うように断言した。
「恋愛と結婚は直結してるんですよね?春野さんは今年で30になるし、子どもも早く欲しい。ということは俺たちが早々に結婚するのは自然な流れなのでは?」
「おかしいでしょーが!順番間違えてるよ!」
「順番?」
「付き合って、愛を深めて、お互いのことをもっともっと好きになって高まった先に結婚があるものなのよ、普通は!」
「まあ、俺、自分で言うのも変ですけど普通じゃないので」
淡々と話す神宮寺くんの表情は、ものすごく真剣というわけでもなく、かといってふざけたようにヘラヘラ笑っているわけでもない。
世間話でもするみたいに無表情で話している。
いつもの、普段の彼。
ねぇ、どうしてなの?
告白された時もそうだったけど、もっとこう、甘い雰囲気を作る気とかないわけ?
思い描いていたプロポーズからだいぶ外れたところにポツンと置かれて、そうだ普通じゃないんだこの男、と思い出した。
分かっちゃいたけど、本気で普通じゃない。