マイノリティーな彼との恋愛法
「出先で山の急斜面から落ちて怪我をした時、思い浮かんだのは春野さんの顔でした」
温かいほうじ茶を飲んでいるところに、点々とした雫がこぼれるように言葉を紡ぎ出す彼に目を向ける。
ヤツは私のことは見ておらず、焼肉弁当に視線を落としていた。
「もらったマフラーを出血してる同僚の足に巻き付けてる時に、春野さんはなんて思うだろうって。きっと、役に立ててよかったって笑うだろうなって予想しました。言われたら、俺はきっと怒ってしまうってことも」
「………………当たったね」
「心配して来てくれたのに、あんな態度とってすみませんでした。あの日あの時あなたが来てくれなかったら、俺は今日ここには来ていません。両想いだという確信が無ければさすがに家までは乗り込めませんから」
「ハッキリ言って不法侵入よね」
「でも春野さんは受け入れてくれたじゃないですか」
それは、まあ、好きだもの。
受け入れなかったら神様からバチが当たる。
神宮寺くんが怒ったのは、私が使い捨てマフラーなんて言ってしまったからだというのは容易に分かる。
あれは私の不用意な発言だった。
ただでさえ心身共に疲れ果ててる人に言う言葉じゃなかったのだ。
もぞもぞと弁当の隅に添えられている漬物を口に運んでいると、神宮寺くんがようやく顔を上げて私の顔を見つめた。
「恋人になるのも夫婦になるのも同じことでしょ、責任があるか無いかの違いくらいで。だったら俺はあなたを支える責任のある夫婦になりたいんです」
「それとこれとは話が別じゃ……」
「同じですよ。もしも不安なら何度だって好きだと言いますが」
「い、いいっ!プレミア感が減るからっ」
プレミア感とは?と首をかしげている神宮寺くんは置いておいて、私は魅力的な「結婚」の二文字にまんまと揺れていた。
とんでもない急展開なのは承知していたけれど、さらに上をいく展開が待っていようとは。
まだ夢を見てるんじゃないかと、そっちの方が不安になる。