マイノリティーな彼との恋愛法
「春野ひばりです。風花ちゃんたちと同じで、不動産会社の管理センターで事務やってます」
「神宮寺渉です。設計事務所の測量士です」
同時に現れたのだから同時に自己紹介をすることになるのは当たり前のことで、私の隣に座るちょっと地味な顔立ちの彼は、なんだかとてもお金持ちそうな名前の持ち主だった。
すぐさま風花ちゃんが食いつく。
「神宮寺さんってすごい名前〜。もしかして、ご実家はどこかの会社をやられてるとか?」
「いえ。親は普通の会社員です」
「チッ、なんだぁ」
おーい、心の声がダダ漏れだよ風花ちゃん。
私としては彼の名前よりも測量士っていう職業の方が気になって仕方ないんだけど。
誰もそこには食いつかない。
逆隣に座っている風花ちゃんがこっそり私に耳打ちしてきた。
「春野さん、ごめんなさい。さっき分かったんですけど、この人たち、建築士じゃないらしいです。設計事務所の事務や経理の人なんですって」
「ふーん、そうなんだ」
「建築士じゃなかったら意味ないですよね〜。騙されたぁ」
「そもそもどこで知り合ったのよ」
「オフィスが同じビル内だから、たまたま知り合っただけです」
えー、設計事務所なんて同じビルに入ってたかなぁ。
大手の生命保険会社とか、県内有数の一部上場企業の子会社とか、そういう目立つ会社しか覚えていない。
よくまぁ、風花ちゃんは色んなところからルートを作ってこういう飲み会にこぎつけるなぁと感心する。
期待ハズレというわりには、楽しそうに男性と話している後輩たちにアッパレと言ってあげたくなった。
事前情報で「アラサー」「お局」「めんどくさい」を聞いている男性陣は、私に話しかけてくることはない。
このまま1時間我慢して、さっさと家に帰ろーっと。
グラスに入ったビールをゴクゴク飲んで、テーブルに広がるコース料理をつついていたら。
隣からボソッと低い声。
「つまらないですか?」
目だけをゆっくり隣に向けると、神宮寺くんがまたしても目を細めてこちらを見ていた。
彼もこの合コンに来たということは、女の子と話したいとか、彼女が欲しいとかそういう目的があるんだろう。
私なんかが隣で申し訳ない。
「もしよかったら、席代わります?」
「あと1時間か。かったるいですね」
「は?」
「俺は人数合わせで呼ばれただけなんで」
おいおい、そっちも人数合わせが必要だったのかい!
だったら最初から4人ずつでやればよかったのに。そうすれば私と彼は人数合わせで呼ばれずに済んだはず。
確かに言われてみれば、彼は他の男性陣とはだいぶ温度差のあるドライな空気を持っていた。