マイノリティーな彼との恋愛法
ビールを淡々と飲んで、残り少なくなったお皿の焼き鳥を黙々と食べる神宮寺くんに今度は私から問いかけた。
「あのー、この間壊してしまったメガネは作り直しましたか?」
「あー、はい、一応」
「一応、とは?」
「乱視も入ってたらしくて、出来上がるまでに1週間かかるって言われました。なので来週までは裸眼で過ごします」
「…………見えてます?」
「正直言うと、あまり」
彼の答えを聞いて、やっぱり!と思った。
なぜならさっきから彼はビールのグラスの取っ手との距離を見誤って透かしを食らったり、焼き鳥の串を掴めずに指が空を切ったり。
明らかに手元が見えていない様子だったのだ。
「近視って言ってませんでした?」
「言いました」
「どれくらい悪いの?」
あまり深く考えずに聞いたら、彼が次にとった行動に心臓が跳ねた。
個室の外で会った時にされたように、彼の顔が急に近づいてきたからだ。
あまりにも突然顔を近づけられたので動揺して動けずにいると、彼はそこで初めてにこりと笑った。
「これくらいだと、なんとなく相手の顔がよく見えます」
決して好みの顔ではない。
目鼻立ちがハッキリしている容姿が好きな私には、特徴のない顔立ちの彼は間違いなくタイプじゃない。
だけど、妙に胸がドキドキした。
たぶんそれは、私がしばらく恋人がいないという部分が大いに関係しているんだと思う。
こんな風に顔を近づけられたのも、もはや数年ぶりかも。
ヤバい。これは風花ちゃんが言ってたみたいに、本当に免疫つけておいた方がいいのかな。
そう思いながら、やんわりと笑顔を向けた。