マイノリティーな彼との恋愛法
唖然としてその場に固まっていると、彼は涼しい顔で空いている手でみんなに手を振り、「じゃあね」と言い残して私の肩を抱いたまま歩き出した。
「も、も、持ち帰るって!?誰を!?」
「あなたを」
「なんで!?」
「ちょっと黙っててくれない」
「だ、だ、黙ってられないでしょうが〜!」
「しょうがない人だな」
ジタバタ抵抗しつつ、後ろをチラッと見てみるとまだみんなこちらを凝視している。
それも、信じられないという顔で。
そんなの当たり前だ。
余りもの同士だったし、かと言って盛り上がってもいなかったし、傍目から見たら謎以外のなにものでもない。
「あ、あのね、持ち帰るって意味分かって使ってる!?本当にやめて、そんなつもりないし!」
「俺もそんなつもりまったくないから安心して。とりあえず黙ってついてきて」
「え?え?なにがどうなって……」
はてなマークしか浮かばない私を、彼はやや強引に引っ張るようにして歩いた。
週末の人混みを縫うように、すたすた歩く彼についていくのがやっと。
途中つまずきそうになると、彼が支えてくれた。
なにがなんだか分からないけど、ホテルに連れ込まれそうになったら大声を出してやると決意した。
しかし、その決意は数分ほどで消え去ることになる。
大通りに出たところでパッと手を離した神宮寺くんは、さっきのメンバーがついてきていないかを確認した後、ようやく小さなため息をついた。
「あのさぁ、空気読んで。二次会に行かないための咄嗟の言い訳だから」
「は、はぁ……なるほど。ごめんなさい、不慣れなもので」
「不慣れって……合コン初心者?」
「7年振りだったので」
私のつぶやきのような言葉を聞いて、彼はちょっと驚いた表情を見せた。
思い返せば、彼の動揺を誘ったのは今が初めてかもしれない。
「たぶん、よく目が見えないから分からなかったと思うんだけど、私、29歳なんです。もうすぐ30なんです。風花ちゃんたちよりも遥かに年取ってるの。完全な売れ残りです」
「そうなん…………デスネ」
たどたどしい敬語に戻った神宮寺くんの姿から察するに、彼は私よりも年下であることはうかがえた。