マイノリティーな彼との恋愛法
私はというと、いくつか並ぶ簡易的なミーティングルームのひとつに仁科課長と向かい合って座っていて、今まさに隣でくっちゃべっている後輩事務員の1人のミスについて相談していたのだ。
40代妻子持ち、小学生のお子さんがいる課長は、見るからに人の良さそうな顔を困ったようにふにゃりと崩して
「こっちの方も困ったねぇ」
と、手元の書類に視線を落とした。
「今月に入って3回目。しかも何度言っても直らないときた」
「…………いっそのこと、彼女の担当棟数を減らしますか?」
「うーん、それでもいいけど、減らした分はどうするの?」
「私が担当します」
「ありゃ〜。いいの?」
いいの?もなにも。
もうそうするしかない。
大事な顧客様に迷惑はかけられないし、これ以上ミスしようものなら信用問題になりかねない。
「あれかなぁ、優秀な先輩がいると後輩がたるむのかなぁ」
「私は別に優秀でも何でもありませんけど」
「謙遜しちゃって〜」
呑気な笑顔を浮かべる課長に合わせて、一応取り繕う意味でもそれっぽい笑みを浮かべておいた。