マイノリティーな彼との恋愛法
「酒のにおいがする」
会って第一声、神宮寺くんにしかめっ面で言われた。
なにもそんな嫌そうな顔しなくても。
「すみませんねぇ、飲んべえで」
「無理に来ることなかったのに」
「でももう来ちゃったし」
どこに行くとか、なんにも決めていないのに2人並んで歩く。
人通りが多いからおのずと寄り添うようにして歩くけど、ヤツは私にペースを合わせることもなくずんずん行ってしまう。
気遣いってものがゼロである。
「俺の番号、登録してなかったでしょ」
いきなり指摘されて、答えに詰まった。
そこを突っ込まれると苦笑いを返すしかない。
「しようしようとは思ってたよ?」
「春野さんって意外とズボラなんですね」
「……だからこうして売れ残ってるわけ」
「………………なるほど」
「ちょっと!納得されると傷つくし!」
過剰に反応する私を面白がるように、神宮寺くんが吹き出しそうになっていた。ゴホゴホと咳払いでごまかしているのは、私からは見え見えだ。
「ねぇ、神宮寺くんって何歳なの?さっき渚が言ってたのよ。今どきの子は連絡先交換ってラインIDらしいよ」
「26歳です。でも俺は今どきじゃないってことだ」
「あぁ〜、若いっ。いいなぁ26歳」
「3年ぽっちで若いだの歳とってるだの、気にしすぎですよ」
ちょっぴり肌寒い秋の夜風に肩をすくめた彼は、そう思いませんか、と同意を求めてきた。
「たった3年ですよ。何が違うんですか」
「もうすぐ30歳と20代半ばって、そちらさんが思ってる以上に差を感じるものなのよ。体力の衰えとか、お酒に弱くなってきたとか、色々ね」
「俺の目には春野さんが酒に弱いようには見えませんでしたけど。むしろ酒豪なのかと」
し、失礼なっ!
これでも昔より少しお酒には弱くなったつもりだったのに!
1人でカリカリしていたら、神宮寺くんがヒョイと路地に入り込んだ。
私はあまり足を踏み入れない通りだったので、どこに行くんだろうとキョロキョロ見回す。
「酒と料理の美味い店に行きますから。なんだかんだ言って好きなんでしょ、酒飲むの」
私の心の声が聞こえたのか、余裕の微笑みを浮かべた彼がこちらを見ていた。
人を大酒飲みみたいに言わないで!と言ってやりたいのに出来ないこの口。くそぅ。事実だから言い返せない!
「まぁ、ね」という曖昧な答えしか言えなかった。
なんか私、この人のペースに巻き込まれてないか?