マイノリティーな彼との恋愛法
私が勤めるのは、県内でも有数の不動産会社。そこの管理センターで事務をしている。
仕事内容としては、受付や電話対応はもちろん来客へのお茶出しなど一般的な業務のほか、賃貸物件に住む入居者さんたちから入金があった家賃をオーナーさんに送金したりする。
新規入居者の登録や退去入居者の解約などもすべて一手に引き受けており、県内の支店から毎日目まぐるしく変更や問い合わせなどが来たりもする。
はっきり言って、忙しい。
言葉は悪いけど、クソ忙しい。
そんな中、後輩事務の一番の問題児である風花ちゃんはなかなかのトラブルメーカーで、ほぼ毎日なにかしらミスをしては「やっちゃった〜」と笑ってごまかしている。
それで、気の長い仁科課長でもさすがに腰を上げて私に相談に来たってわけなのだ。
相談というか、課長はきっと私の出方は予想していたと思うので、彼の思惑通りに事が進んでいるような気がしてならない。
「やっぱり困った時は春野さんに頼むに限るなぁ。君が突然寿退社なんて言い出したりしたら、ここはプチパニックになるよ」
この、のほほんとしたプリン体へまっしぐらな体型の仁科課長は、時々こうやって人の心の嫌な部分をチクリと刺してくる。
無意識なのがまたイラッとさせられる。
風花ちゃんが重ねた今月のミスした箇所が印刷された書類を、無駄にトントントンと音を立てて揃えた私はおもむろに立ち上がった。
「じゃ、話は終わりですね。お昼休憩に入らせていただきます」
「悪かったね、大事な昼休みを削らせちゃって」
「いえ、大丈夫です。……それと、寿退社の予定はこれっぽっちも入っておりませんのでご安心ください」
「あはは、頑張れ〜」
うるさい、タヌキ!
……という暴言はなんとか耐えて、ミーティングルームを抜け出した。
隣からはまだキャッキャと若い子たちが盛り上がっている。
声をかける気にもなれない。
さっさとランチへ向かうことにした。