マイノリティーな彼との恋愛法
店内には私以外にも何人か女性客はいたけど、ほとんどが男性客。それも女将さんに癒しを求めているのか、50代くらいの人が多かった。
女将さんみたいなカラカラした明るさと、聞き上手な雰囲気があればモテるのかしら。
いや、もう今さらモテたいとか思わないけれど。
「ここには1人で来ることが多いの?」
頼みまくった料理がどんどん目の前に並べられていき、出来立ての揚げ出し豆腐をハフハフしながら聞くと、神宮寺くんは焼き鳥の砂肝をコリコリ言わせながらうなずいた。
「週末、予定がない時は必ず来ます。日本酒が美味いので、ビール無くなったら頼みませんか」
「おー、いいねいいね。料理も本当に美味しいね」
「…………なんかハムスターみたい」
「何が?」
「春野さんの顔」
両頬いっぱいに揚げ出し豆腐を詰め込んでもぐもぐしていたからなのか、パンパンになった私の顔を見た彼が冷静に分析している。
懸命に飲み込もうとしているうちに、彼がおもむろに食べかけの砂肝をひとつ口に突っ込んできた。
「むぐっ。あにふんほほ!」
「は?」
「んんっ。何すんのよ!」
「砂肝、めちゃくちゃ美味くないですか?」
「…………う、美味いけどさ」
俗に言う、「アーン」を色気も何もないテンションでやってのけた神宮寺くんが不思議でたまらない。
何を考えているのかさっぱり分からない。
「ホッケの干物も脂のってますよ。どうぞ」
大振りなお皿にのった、表面がテラテラに照っているいかにも美味しそうなホッケをすすめられ、ついつい箸を伸ばしてしまった。
盛り盛りに箸に乗せてパクッと食べたら、その様子をまじまじと神宮寺くんに観察された。