マイノリティーな彼との恋愛法
そもそも測量士ってどんな仕事なのか具体的なことは知らない。
建設前の土地や道路を測量するために、カメラみたいなものを三脚に置いて何かしている人を見かけたことがあるくらいだ。
「神宮寺くんっていつも作業着を着てるよね。屋外で測量するから動きやすい方がいいってこと?カメラ使って測って記録するんだよね?」
素人のイメージというのは、恐ろしく簡素化されているものだ。
私がサラッと口にしたら、彼は「それだけじゃないですよ」と即座に否定してきた。
「屋外ってどこをイメージしてますか」
「道路とか住宅地とか?」
「外れてはいませんけど、実際はもっとハードな場所もたくさんあります。山奥とか、足場の悪い田舎の崩れかけた崖とか、整備されてない所だと最悪です」
「そんなところに家建てる人いる?」
「家だけじゃないんですよ。高速道路とか橋とか線路とかダムとか、そういうのを設置する前には必ず測量士が出向いて測量して、下地を作るんです」
「あーーー!そうか!そういうのも含まれるのか!」
私ったらなんて失礼な!
確かに建築物って家のイメージしか無かったけど、言われてみれば橋やら線路にまで考えが及ばなかった。
この間の合コンでは測量士の仕事は「土地の測量」だと答えていたけれど、一言で終わらせれば簡単な答えは実はとても複雑なんだということを知った。
「測量した後はひたすらデスクワークなので、静と動が表裏一体の仕事なんです。でもそこが面白いと俺は思ってます」
「面白くて楽しいってこと?」
「そうですね。キツいことも多いですけど、それ以上にやりがいは感じてます。ひとつ文句があるなら給料が低いことですかね。でも働ける場所があるだけいいことにしてます」
一応、悩みと呼ぶに相応しいかどうかは微妙だけど、彼なりに不満はあるらしい。
今までの話を聞く分には、たぶん朝早く出勤して夜遅くに退社するんだろうから、体力勝負の仕事と言っても良さそうだ。
あまり饒舌ではない神宮寺くんが測量士の話になったらわりとしゃべり出したので、よっぽど仕事が好きなんだなぁということだけは伝わってきた。