マイノリティーな彼との恋愛法
中華料理屋をあとにして、足早に路地を通り抜けて会社の入っているビルへ戻る。
真新しいエントランスはライトブラウンで統一されていて、観葉植物もいっぱい。受付にはぷるっぷるにグロスを塗った厚化粧の女の子2人がニコニコと座っていた。
セキュリティーゲート前に立っている警備員に「お疲れ様です」と挨拶して、バッグから社員証を出して首から下げる。
前方では何人かの社員が次々にゲートを通過して先のエレベーターへ乗り込んでいくのが見えた。
…もういっそ部署異動の希望でも出そうか。
細かい作業やパソコン作業がわりと得意な私には、管理センターの仕事は性に合ってると思っていたけれど。
この歳になって人間関係で疲れるのは、やっぱり相談できる人がそばにいないのは大きいんじゃないかな。
かと言って、あの若い女の子たちのためにやすやすと異動願いを出すのは癪に障るような…。
いったいどうしたいのよ、と自分でツッコミを入れそうになりながら腕時計に視線を落とす。
お昼休みが終わる13時まで、あと5分も無い。
仁科課長と少し話をしたから、その分いつもよりも時間に余裕がなかったのだ。
━━━━━やばい、急がないと…………。
ゲートは目の前にあるのに、さっきから一向に進まない。
と、いうか。
私の目の前にいる作業着姿の男が一歩も動かない。
チャコールグレーの上下の作業着は、たまにこのビル内でも見かけることがあった。
大きなビルなのでたくさんの会社が入っており、全てを把握しているわけではない。
…まさか、立ったまま寝てないよね?
あまりにも動かないので、ちょっと体をスライドさせて彼の顔をのぞき込もうとした。