マイノリティーな彼との恋愛法
私の考えはそんなに妙だろうか?
もう少し話してみるかと続ける。
「例えば恋人なんかが運転してて、何も言ってないけど助手席に座ってる彼女がアメを差し出したり、ペットボトルのフタを開けて渡したりするじゃない?」
「あぁ、よく聞きますね」
「あれも基本的にやらないの。欲しい時に声かけてねって感じで。だって欲しくもないタイミングで渡された方は、申し訳ないから受け入れるしかないじゃない」
「へぇ。でもそれって世間で言う女子力の低い女性なんじゃないですか?」
「……………………だよねぇ……」
痛いところを突かれた。
分かってはいるんだけど、自分の立場に置き換えた時に押し付けられるのがなによりも迷惑行為だと思ったのだ。
自分がやられたら嫌なことはやらない。
これはいつからか身についた持論だ。
「そっかー。だから彼氏出来ないのかなぁ」
遠い目をして自嘲気味に笑うと、彼はクククと肩を震わせて笑っていた。
なにがそんなに面白いんだ?
寂しいアラサー女は見世物じゃないのよ!
じぃっと半分睨むみたいにヤツを見ていたら、神宮寺くんが「違いますよ」と首を振った。
「決してバカにしてるわけじゃないですよ。きっと春野さんは気を遣わない相手が合うんでしょうね。着飾っていいところばかり見せようとするんじゃなくて、ありのままの自分を見せられるような」
「あはは、そういう歌あったよね」
「ディズニーの?」
「そうそう、それ。見たことないけど」
「俺も見たことない」
顔を見合わせて、ふふふと笑い合った。
そこで、あれ?と不思議な心地がした。
無の境地に立ってこの人と話をしようと決意していたはずだけど、思ってたよりも今回は楽しく過ごせてる……ような……?
「半分諦めかけてるんだ。来年30歳になるし、売れ残りのこんなガサツな女を受け入れてくれる優しい殿方なんて、きっとこの先現れないだろうなぁって」
酒器に少し残っているお酒をちびちび飲みながら、聞き流してくれてもいいやってくらいの小声で言った。
すると、どうでしょうね、という曖昧な返事を目の前の男は返してきた。でも、そのあとに続いたのは何故か確信を持ったような口調だった。
「俺は現れると思いますよ。あなたを丸ごと受け入れてくれる人」
「……………………適当なこと言わないでくれる?」
「しょうがない人だな、励ましてあげてるのに」
彼にはため息をつかれてしまったけれど、今の会話で不確かなはずの将来に心なしか光がさした。
丸ごと受け入れてくれる人、っていう表現が、なんだか温かくて優しい響きを持っていたからなのかな。
いるなら早く現れてくれればいいのになぁ、こんな私を丸ごと受け入れてくれる人。