マイノリティーな彼との恋愛法
ひと通り話を聞き終わった渚は、ううーむと腕を組んで、あたかも真剣に悩んでいるような表情を浮かべた。
こういう時は決まって楽しんでいる。
彼女はそういう子だ。
そしておもむろに食べかけのケーキからフォークでひと口分を取り、「これでだいたい100円分かしらね〜」と微妙な計算をしてため息をついた。
「なんだか計算しながらデートしてるみたいで息が詰まるね。もういい加減メガネの弁償とか忘れたら?」
「デートじゃないんだってば。あくまで弁償だっつーの」
「そう思ってるのはひばりだけかもよ?」
そんなバカな、と言いかけてやめる。
まだ渚が話を続けようとしていたからだ。
「きっと彼はひと口いくらとか考えながら食べてるに違いないわ。でさ、残りいくら食べたらひばりとデート出来なくなるか計算してるのよ〜!」
「そんなヤツじゃないって。1回会ってみてほしいくらい。ふてぶてしくて、やる気のない目をしてて、でも仕事だけは好きって言うヤツの顔を!」
測量士という職業柄なのか細かく計算して食事代を割り出すあたり、神経質さを感じなくもない。
私はもっと大雑把でおおらかで、優しくて頼りがいのある人がいい。
さらに言うなら、好きとか愛してるとか、ちゃんと口にしてくれる人がいい。
「ひばりが嫌ならそれまでだけどさ、よくよく考えてみなさいよ。本当に本当に迷惑に感じてたら、相手だって死ぬ気で断ってくると思わない?逆の立場だったらコイツは無理だって人とは食事に行かなくない?」
妙に説得力のある渚の鬼気迫る質問に、私は「まぁ、そうかもね……」と半分怖気づいて答える。
そりゃ生理的に受け付けない人とは食事には行けないけど。でもそれなりにきちんとした服を着て、きちんとした仕事をして、きちんとした性格であればそこはそんなに重視しないのだけれど。
性格はどうであれ、神宮寺くんはきちんとスーツを着ているし(仕事中はきったない作業着姿しか見たことないけど)、測量士というしっかりした仕事をしている。
相手からしても、私は普通のオフィスカジュアルの服を着ているし、ちゃんと仕事もしているし。
常識の範疇に収まっているんじゃなかろうか。