マイノリティーな彼との恋愛法


その瞬間、後ろから誰かにぶつかられた。
清掃員のおばさんが猛烈なスピードで清掃カートを押していたらしく、急にゲート前の列からはみ出した私に追突したらしい。

追突された私は、意志とは反対に勢いよく作業着姿の男の背中に激突してしまった。


「ご、ごめんなさい!」


だいぶ勢いづいてぶつかったので、その男も前につんのめる。
彼が足を踏み出してバランスを取った直後、パリンという不吉な音を聞いた。


「大丈夫…………です」


ボソッとしゃべった声が上の方から聞こえて、その後彼はゲート前の列から外れた。


お昼休みが終了する時間は目前だけど、さすがに「そうですか〜じゃあどうも!」なんて言って退散するのは気が引ける。

一応私も倣って列を外れ、まだ背中を向けている彼におそるおそる声をかけた。


「怪我とかしてませんか?」

「…………はい」


返事はしてくれるけど、ちっともこっちを見やしない。
むしろ猫背になって下を向いている。

それでもめげずに話しかけた。


「痛いところは?」

「特にないです」

「いきなりぶつかってすみません」

「…………はい」

「……あの、何か探してます?」

「…………いえ、探してません。見てます」

「何を?」

「落ちて踏んづけたメガネ」

「━━━━━えっ!!」


ギョッとして一緒になって下を見る。

そこには見事にレンズが粉々になった黒いフレームのメガネが落ちていた。


< 7 / 168 >

この作品をシェア

pagetop