マイノリティーな彼との恋愛法
その瞬間、後ろから誰かにぶつかられた。
清掃員のおばさんが猛烈なスピードで清掃カートを押していたらしく、急にゲート前の列からはみ出した私に追突したらしい。
追突された私は、意志とは反対に勢いよく作業着姿の男の背中に激突してしまった。
「ご、ごめんなさい!」
だいぶ勢いづいてぶつかったので、その男も前につんのめる。
彼が足を踏み出してバランスを取った直後、パリンという不吉な音を聞いた。
「大丈夫…………です」
ボソッとしゃべった声が上の方から聞こえて、その後彼はゲート前の列から外れた。
お昼休みが終了する時間は目前だけど、さすがに「そうですか〜じゃあどうも!」なんて言って退散するのは気が引ける。
一応私も倣って列を外れ、まだ背中を向けている彼におそるおそる声をかけた。
「怪我とかしてませんか?」
「…………はい」
返事はしてくれるけど、ちっともこっちを見やしない。
むしろ猫背になって下を向いている。
それでもめげずに話しかけた。
「痛いところは?」
「特にないです」
「いきなりぶつかってすみません」
「…………はい」
「……あの、何か探してます?」
「…………いえ、探してません。見てます」
「何を?」
「落ちて踏んづけたメガネ」
「━━━━━えっ!!」
ギョッとして一緒になって下を見る。
そこには見事にレンズが粉々になった黒いフレームのメガネが落ちていた。