マイノリティーな彼との恋愛法
県内でも何十店舗もお店がある有名な牛タン屋は列をなしていて、相変わらずの人気だ。
それでも混雑のピークは過ぎた時間帯だったからか、待ち時間は30分ほど。
寒さに耐えて待ってでも食べる価値のある美味しいお店なので、我慢して並ぶことにした。
ただ黙って並ぶのもつまらないので、彼の素敵なところを探そうと色々画策してみる。
「神宮寺くんってどこ出身?」
「岩手です」
「こっちの人じゃなかったんだね。岩手ならアレ美味しいじゃん。なんだっけ、ほら、あっ、米沢牛!」
「…………それ山形です。岩手は前沢牛」
「ごめん、似てるから分かんなくなっちゃった。…………あ、冷麺も岩手だよね?」
「確かに岩手ですが、ただでさえ寒いのに冷麺の話は結構です」
「………………」
空気を読まずに流れをぶった斬る男、それが神宮寺渉だ。
ヤツには気を遣うとか話を盛り上げるとか、そういう心は無いらしい。分かっちゃいたけどさ。
とことん型にハマらない男だ。
「春野さんは?」
「なにが?」
急に話を振られて、面食らって聞き返す。
彼はチラリと私を見てから、
「出身地どこ?」
と尋ねてきた。
おお!まともな質問されたの、実は初めてかも!?
密かに感動して、笑みが自然にこぼれる。
「富谷って分かる?」
「分かります」
「そこだよ〜。今は市内にひとり暮らししてるけどね」
聞いてきたわりには、大して食いつくこともなく。
彼は、そうなんですね、という無難な返事をして、それで終わり。
ほんっとーーーに興味無いのね、と伝わってくるような態度なので、逆にこっちも諦めがついて頑張って話すのをやめた。