マイノリティーな彼との恋愛法
私たちの前後に並んでいるお客さんは、みんなそれぞれ一緒に来た友達(同僚かもしれない)と楽しげに話しながら、入店できるのを待っている。
そうそう、普通はこれだよね。
でも普通じゃないのがこの人なんだよ。
それに慣れつつある自分。
よくよく考えると、いま私と彼の間に恋愛感情的なものは発生していないにしろ、これまでの私の恋愛経験から考えると付き合ってきた人とはあまりにも違いすぎて、逆に新鮮に感じたりする。
年上が好みだった私は、ことあるごとに男性にリードしてもらうのを好み、食事する場所やデートの流れなんかは彼に任せるのが当たり前だと思っていた。
だからその場を途切れさせないように気配りしてもらう側だったのだ。
それがこの神宮寺くんの前ではそうもいかない。
全く気配りできないヤツの代わりに、私が一生懸命話しかけるハメになる。
なんで私ばっかり頑張らなきゃいけないのよ。
納得がいかなくてフツフツと込み上げるものを感じていると、思っていたよりも早く列が進んで、店内に案内してもらえた。
冷え切った外から暖房の効いた暖かい店内に入ると、それはもう天国のような過ごしやすさで。
コートを脱いでちょうどいいくらいの室内温度が心地よかった。
座敷席に通されて向かい合って座った時に、ようやく神宮寺くんの顔を正面から見れた。
「ちょっと、その顔面白いんだけど」
「これは防ぎようのない現象です」
神宮寺くんは不機嫌そうに真っ白に曇ったメガネを外し、ゴソゴソとポケットからハンカチか何かを探している。
ちょっと間抜けな姿が、なかなかいい。
「ハンカチなら貸すよ」
バッグから薄紫のレースハンカチを取り出して、ヤツに差し出した。