マイノリティーな彼との恋愛法
「ハンカチは洗って返します」
そう言って、レンズが綺麗になったメガネをかけ直した神宮寺くんは、私のハンカチを勝手に自分のポケットにねじ込んだ。
「え、いいよ!ハンカチくらいで気を遣わないでよ」
2人の間に流れる沈黙は平気なくせに、こんなところで気を遣わなくたって!
と思ったけど、タイミングよく店員さんが現れて注文を取りに来た。
こんな時に押し問答をするのもおかしいので、仕方なくハンカチはヤツに預けることにした。
「何にする?牛タン定食?」
「はい」
「ビールは?」
「今日はいいです。ご飯大盛り無料のやつつけて下さい」
「普通の定食じゃなくて、牛タン極定食にしたら?」
「それはいいです。高いので」
「えー、だってそれじゃあ1890円にならないんだけど」
「………………じゃあ極にします」
普通の定食だと弁償代から差し引いても数百円余ってしまう。
良かれと思って提案したのに、なぜか神宮寺くんはあまり納得のしていない表情だった。
私たちの会話を聞きながら、良きところだと判断したらしい女性店員が注文の確認をする。
「牛タン定食と極定食ですね、ひとつはご飯大盛りでよろしいですか?」
「はい。あっ、大盛りじゃない方は麦飯に変更で!」
「かしこまりました」
店員さんがいなくなった後、神宮寺くんがおしぼりで手を拭きながら口を開いた。
「麦飯ってダイエット?」
「違うよ、牛タンには麦飯が合うんだよ。まぁ、少し太ったから痩せればいいなっていうのは正直あるけど」
「女の人は細い方が偉いんですか」
「いちいちトゲのある言い方しないでよねっ。どうせ万年ダイエッターですよっ」
「ダイエットなんて必要ないですよ。………………たぶん」
「なんで分かるのよ」
「だって胸もあまり無さそうに見え…………」
最後までヤツが言い切る前に、ドカッと掘りごたつになっているテーブルの下で力一杯蹴りつけた。
あまりの痛さに悶絶して言葉も出ないのか、彼が前のめりになってテーブルに額をぶつける。
「なるほど、図星ですね」
呻くようにしながらニヤリと笑ったヤツの足を、もう一度強く蹴ってやった。
今度言ったら股間に蹴りを入れてやるぞ、と思いながら。