マイノリティーな彼との恋愛法
程なくして、それぞれ注文した牛タン定食がテーブルに届いた。
焼き立て熱々の牛タンと、テールスープにご飯もしくは麦飯。添え物はお新香と南蛮味噌。
神宮寺くんの方は極と銘打ってるだけあって、牛タンがものすごく分厚い。
両者ともに手を合わせて「いただきます」と声を揃えた。
どちらが言い出したわけでもないけれど、2人で一緒に「いただきます」をするのは最初に食事をした時からずっと変わらない。
そういう大事なところは、常識を打ち破る彼でもどうやらきちんと親にしつけられたらしい。
「春野さんも極にすればよかったのに」
「捨て難いと思ったけどね。量も多そうだし、食べ切れる自信が無かったの」
分厚いくせにすんなりと噛み切れるほど柔らかいらしく、ひと口牛タンを食べた神宮寺くんが私のお皿を見てちょっとだけ眉を寄せた。
同じ感動を味わいたかったようだ。
「そんなに口の中にパンパンに麦飯詰めといて、食べ切れる自信ないとか信憑性疑いますね」
ジト目で私の食べる姿を眺めるので、微妙に居心地が悪い。
両頬が膨らむほど麦飯をかき込んでしまった自分の食べ方を呪いつつ、急いで飲み込んだ。
「こっちの牛タン1枚食べてみます?」
と、神宮寺くんがお箸で牛タンを持ち上げてこちらをうかがう。
この流れは、ウンとうなずいた瞬間に容赦なく口の中に色気のない「アーン」で牛タンをねじ込まれる!
察知した私は、お皿を突き出した。
「これに置いて。で、私の1枚食べて。交換しよ」
「はい、分かりました」
あっさりとヤツは私のお皿に分厚い牛タンをのせる。代わりに私の牛タンを持っていった。
あまりにもあっさりしていたので、拍子抜けした。
もしかしたら、さっきみたいにニヤリと笑ってフェイントをかけて、そしていつもみたいに問答無用で口の中に牛タンを突っ込んでくるかも〜なんて思ったからだ。
あれ、ちょっと残念?
そんなバカな、落ち着け私。