マイノリティーな彼との恋愛法


「そんなガッカリしないで下さいよ」


不意にそんなセリフが聞こえてきて、ハッと我に返って視線を上げた。
正面の席で、神宮寺くんが頬杖をついて笑いをこらえていた。


「そんなに食べさせてほしかったですか?」

「なっ、なに言ってんの!バカ言わないでよ!」

「しょうがない人だな」


あれよあれよという間に、神宮寺くんのお箸には新たな厚切り牛タンが挟まれていて、気がついたらそれがすでに私の口におさまっていた。

突然すぎて動揺したのと、牛タンがびっくりするほど柔らかくて動揺した。


「おっ、お、おお、お……」

「大丈夫?」

「……おいひい、やぁらかいし(美味しい、柔らかいし)」

「ね、でしょ。こっちにすれば良かったのに」


バカップルみたいな甘さはゼロ。
甘味料ゼロの炭酸飲料のよう。味気なくて、そして素っ気ない。
だけど今日初めて感じた、ほんの少しのあったかさ。

甘くないけど、味気ないけど、素っ気ないけど、ひと握りの濃縮されたスキンシップ。

それを彼の中に見つけた。


とても分かりにくいけど、この人なりの親しみを込めた表現。


しかも最後には、人懐っこさが突如として溢れ出す、あの三角の目をしたなんともいえない笑顔を繰り出してきた。


悔しいけど、案外悪くない。

こいつのこと、もう少し知りたいなんて。そんなこと絶対に金輪際思うはずないと何度も考え直したけど、やっぱり興味が出てきてしまった。


大事なことを、忘れているとも知らずに━━━━━。


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