マイノリティーな彼との恋愛法
「お会計合わせまして4276円になります〜」
レジカウンターの前で、お財布を出したまま思わず突っ立って一時停止してしまった。
決してお金が無いとか、思っていたよりも高かったとか、そういう社会人として情けない理由ではない。
忘れてはいけないことを思い出したからだ。
「あのー、お客様?」
カウンターの向こうにいる店員さんが、怪訝そうに私を見つめる。
その視線に慌ててお財布からお金を出した。
「すみません!これでお願いします」
「1万円お預かり致します〜」
お会計を済ませてお店を出ると、神宮寺くんが白い息を吐きながら私を待っていてくれた。
「ご馳走さまでした」
「いえいえ。…………じゃ、帰ろっか」
駅までの短い距離を、歩く。
正味3回の、たった3回の食事だ。
言葉数が人よりも圧倒的に少ないヤツのことは、その3回の食事でたぶん5パーセントくらいしか把握出来なかった。
普通の人なら、きっと50パーセントくらいはその人の人となりを理解できたと思う。ちょっと普通じゃない神宮寺くんだから、5パーセントなのだ。
でも最初の食事の時には、もう2度と2人で食事に行くことはないと思っていたはずなのに、今日は明らかに違った。
また会えたら、と思ってしまっている。
悔しいけど、本当に悔しいけど(しつこくてすみません)、「また会えたら」よりも「また会いたい」の方が強くなってきた!
でも、どう足掻いたって私たちの関係はこれで終わり。
今さっきのお会計で、そのことを思い出した。
私と神宮寺くんは、元はといえばメガネを壊したのがキッカケで弁償代として食事をご馳走していただけの関係に過ぎない。
8500円分の食事が終わってしまえば、それでおしまい。
つまり、今日で残りの1890円は払い切ってしまったので、もう会う理由がないのだ。