マイノリティーな彼との恋愛法
やっちまった!!
慌てて膝に額がくっつくぐらいの気持ちで頭を下げる。
「すみません!!弁償させて下さい!!」
「いいです。踏んだの俺だし」
「そ、そりゃそうかもしれませんけど!ぶつかったの私ですから!」
歪んでしまったメガネを拾って、彼の顔を見上げた。
これといった特徴のない顔と、これといった特徴のない髪型。
敢えて言うなら、厚ぼったい瞼と無気力な目?きちんと整えてるというより、無造作な髪型?
身長はけっこうあるな。
こっそり観察していると、彼は私の手からレンズの無いフレームを抜き取り
「ちょうど買い換えようと思ってたので。近視だけど通勤は電車だからどうにかなります。仕事上の運転は同僚に任せるのでお気になさらず」
と言うと、作業着のポケットをゴソゴソ探り、「あ。あった」と私が持っているのと同じような社員証を取り出した。
どうやら、彼はゲート前で社員証を探していたらしい。
それで動かなかったのが真相のようだ。
見つかった社員証をゲートのパネルにかざして、するすると通過した彼はそのままエレベーターに吸い込まれていった。
あまりしつこく弁償を迫っても変に悪目立ちしそうで言えなかった。
実際すでに何人かの社員が私を見てコソコソ話している。
軽く会釈して、私もゲートを通り抜けた。
せめて会社名と名前くらいは聞いておけばよかったな、と思いながら。