マイノリティーな彼との恋愛法
手持ち無沙汰になるのもよくないので、震えそうな手を動かして前菜を食べ始めた。
空きっ腹に上品な味付けのオシャレな料理がたまらなく美味しく感じる。
こういうレストランに来るのも、実は初めてかも。
なんだかいかにもお見合いっぽくて緊張した。
どれもこれも美味しくて、ついつい大きな口を開けて料理を食べている時にふと思い出した。
『…………なんかハムスターみたい』
かったるそうなやる気のない男の顔が浮かんで、ハッとして柏木さんの表情をうかがう。
こちらを見てニコニコしていた。
ヤバい!
いつものクセで大量に口の中に詰め込んでしまった!
「す、すみません、こんな食べ方で……」
急いで飲み込んで恐縮していると、なにが?という顔で柏木さんが首をかしげた。
「食べ方?」
「あ、あの、ハムスターみたいですよね」
「ハムスター?……あー!なるほど!そうかーうまいこと言うね!似てる似てる」
「ついガツガツ食べてしまう習性が……」
「そういうところがいいんですよ。変に気取ってなくて、作ってないところが」
でもこの食べ方が綺麗だとはお世辞にも言えないだろうに。
やっぱり綺麗なのは空になったお皿の方なんだと思うことにした。
「今度、俺のよく行く串焼き屋に行きませんか?お店は汚いけど、味はすごくいいんです。美味しそうに食べる春野さんの顔が見たいなーって思いました」
さらりと、ごく自然に。
イヤミなく次の約束を取りつけようとしている彼を見て、思わず私も無意識にうなずいてしまった。
しかもハードルの低そうなお店を提案してくるあたり、親しみやすい。
「はい、ぜひ」
「本当に?嬉しいです!今日、勇気出してお誘いして良かったです」
「………………ありがとうございます」
こんな寂れた私を見つけてくれるなんて。
お礼しか出てこなかった。