マイノリティーな彼との恋愛法
トントン拍子に連絡先を交換して、次の約束もして、話も弾んで。お互いのことを知るために、質問して質問され。
そうそう、会話ってこういうものよねと思い出させられた。
分かりやすく好意を持ってくれているので、相手の意図も汲みやすい。
神宮寺くんなんて気の利いたことも言えないし、基本的にやる気がなくダラッとしていて、いちいち口出ししたくなるようなツッコミどころ満載の男だった。
だから柏木さんと比べると(ヤツと比べるのも柏木さんに申し訳ないが)、その差は歴然だ。
柏木さんは誰が見ても「素敵」とうっとりしそうなスマートな身のこなしや、話し上手に聞き上手、非の打ち所がない。
きっとこういう男性って、人をイラつかせることをわざと言ったりしないだろう。
ぶしつけに人の口に砂肝とかおでんとか牛タンとか突っ込んできたりしないだろう。
もしも私が尻餅をついて転んだら、すぐに手を差し伸べてくれるんだろうなあ。
考えながら、ちょこちょこ存在を見え隠れさせる神宮寺くんの姿を鬱陶しく感じた。
いちいち出てくるんじゃない、その無気力な目が腹立つんだよ!
目の前で優しく笑いながら色々お話してくれる柏木さんに相槌を打ちつつ、瞼の裏の神宮寺くんをベリベリと引き剥がした。
「そういえば、秀行と春野さんたちってそもそもの出会いは合コンなんですよね?」
思い出したように柏木さんが秋頃の合コン話を持ちかけてきた。
アレは若い子に混ざってアラサーの私がのけ者にされた、ある意味思い出したくない出来事なんだけど。
それまで秀行さんと楽しそうに会話していた風花ちゃんが、「そうなんです!」と声を張り上げた。
「いま思い出すと懐かしいなぁ〜。あっ、春野さんは単に人数合わせで呼んだからか、全然馴染まずに終わりましたよねっ」
「あはは、まあね〜。だって風花ちゃんたち若いし明るいし、男性陣はみんなそっちいっちゃうでしょ〜」
たしかにあの合コンで、私はほんの少しも馴染むことが出来ずに帰ったなぁと苦笑いした。
ずっと端っこの席に座って、ひたすらビールを飲んでたんだっけ、………………神宮寺くんと。
「あ、でもあの合コンで春野さんは神宮寺さんと親密になってましたっけ〜。お持ち帰りされてましたよね?」
ゴフッ!と飲んでいた白ワインを吹き出しそうになった。
この女、何を言ってるの!?
飲み慣れないワインに酔っ払ったのか、若干目が据わっている風花ちゃんが言い出したその話に、秀行さんはアワワと慌て出し、柏木さんがすぐに食いついた。
「え?お持ち帰りって?」
「誤解ですよ!持ち帰られてなんていませんから!即刻タクシーで帰ったんですから!」
「そうだとしても、そのあとデートとかしてたんですよねー?」
どうにか否定しても、酔った風花ちゃんの口からはポロポロとそれらしく聞こえるようなことばかり出てきてしまった。
この子はオブラートに包まないどころか、空気も読めないらしい。
「いいなぁ春野さんばっかり!年下男子に言い寄られたと思ったら、今度は年上男子。しかも建築士で御曹司!絶対絶対今年で運を使い果たしてますよねー!」
「ちょ、ちょっと風花ちゃん!飲みすぎだよー。僕たち先に帰ろうかっ」
さすがに見かねた秀行さんが素早くと席を立ち、まだピーピー妬み嫉みを言っている彼女を抱きかかえるようにして「ごめんね、またね!」とそそくさと退席してしまった。