マイノリティーな彼との恋愛法
嵐が去ったように、しんと静まり返った私と柏木さんの間に流れる空気。
うぅ、気まずい。
さようなら、短い間だったけど素敵な夢を見られました。
御曹司との束の間のひと時、楽しめましたっ。
庶民は庶民の生活に戻ります!
濃厚なバニラアイスも溶け始めた頃、柏木さんが突然笑い出した。
「はは、やっぱり春野さんに目をつけてる男、他にもいたかあ。まさかそれが神宮寺だとは思わなかったけど」
「………………え、いや、あの、さっきの風花ちゃんのアレは、鵜呑みにしないでくださいね?」
「え?本当は違うの?」
「全然違いますよっ。神宮寺くんには全く目もつけられてませんし、言い寄られてもいません。風花ちゃんの妄想が7割です」
「残りの3割は?」
頬杖をついて、少しだけ試すような笑みを浮かべる柏木さんの表情は、どこか余裕が見えた。
驚きはしたけど、あまり動じてない。
そんな印象。
これがオトナの男ってやつなのか?
残りの3割は?と聞かれても、そんなに期待に添えるようなエピソードは無いんですが。
「残りの3割…………、実際に神宮寺くんとは食事に何度か行きました」
「誘われたの?」
「……えーとですね、実は以前に彼のメガネを壊してしまったことがありまして。それで、弁償として新しく購入したメガネの代金をお支払いしたいと言ったら断られまして」
「あいつそういうの断りそうだなぁ」
「それで腑に落ちなかった私が、かかった金額分の食事をご馳走したいと申し出ました」
「なるほどね」
合点がいきましたとばかりに、彼は安堵したように胸を撫で下ろした。
そして、溶けて緩くなったバニラアイスをスプーンですくってぺろりと舐めると「ちょっと安心した」と肩をすくめた。
「正直、神宮寺に先越されたと思ったけど、まだ大丈夫そう……かな?」
「私なんて全然相手にもされませんよ」
「じゃあ、俺にもまだチャンスある?」
甘くてとろけるバニラアイスをさらに溶かすような、熱い視線が私に向けられる。
これは、しばらく恋愛から遠ざかっていた私にだって分かる。
この人、けっこう本気で私のことを気に入っているのかもしれない……。
嬉しいような、戸惑うような、どうしたらいいか分からない感情が胸のあたりでくすぶった。