マイノリティーな彼との恋愛法
「俺の職場で、神宮寺はけっこう評価が高くて。まだ若いけど仕事は早いし正確なんだ。かなり切羽詰まって頼んだ仕事でも、文句も言わずに期日まで必ず仕上げてくる真面目なところもある」
私の知らない神宮寺くんの仕事ぶりを、柏木さんを通して初めて知った。仕事が好きなのは知ってたけど、コツコツ頑張っているらしい。
だって仕事がストレス発散とか言ってたもんなぁ。
ぼんやりと神宮寺くんが饒舌になって仕事の話をしている顔を思い浮かべた。
そんな私に、柏木さんが微笑みかける。
「ただ、事務所合同で飲み会があっても、あいつは基本的に自分のことは話さないし、無愛想だし、ちょっと謎だなって思ってたんだけど……。…………春野さんには心開いてたりして」
「ま、まさか!」
あの程度で心を開いているとは到底思えない!
…………とは言うものの、職場ではニコリとも笑わないヤツの姿が容易に想像できてしまう。
ロボット人間のように仕事をこなしていそうだ。
『しょうがない人だな』
こんな時なのに、彼がよく言っていた私への言葉を思い出した。
それをまた聞きたいと思うなんて、私って自分が思ってるよりもМなのか?
「春野さん」
「は、はいっ」
しまった、柏木さんといるのにまた神宮寺くんのことを考えてしまった!
乙女ひばりを封印しなくては!
だってこんなイケメン御曹司、逃したらもう二度と機会は無いだろう。
「今日の食事で、春野さんの魅力をさらに見つけることが出来ました。本当に来ていただいてありがとうございました。…………串焼き屋さんの約束、本気にしていいんですよね?」
確認するように尋ねられて、私は背筋をピンと立てて彼と向き合った。
「私も……楽しかったです。串焼き屋さん、ぜひ連れてって下さい」
「今日は嬉しくて眠れないかも。また連絡しますね」
嬉しそうな照れ笑いを浮かべる柏木さんを見て、どうしてなのかまだ神宮寺くんのことを思い出してしまった。
「また連絡します」って、もうヤツは言ってくれない。「さようなら」って言われたんだもの。
見つけたはずの新しい気持ちは、手放した方がいいみたい。
そして目の前にある夢のような、ドラマみたいな幸せを手に入れた方が絶対にいいに決まってる。
後ろ髪を引かれる思いがしたけど、神宮寺くんへの気持ちにはフタをすることにした。
きっとこれでいいの、と自分に言い聞かせながら。