【短】相見えるまで





列はもうなくなった。


それでも、彼の姿はみつからなかった。



私は周りを必死に探す。


もしかしたら、

彼の見落としてしまったのかもしれない。


私より先に、家族に会いに行ったのかもしれない。


きっと戻っているはずだもの。



こんなはずじゃない。



私は、再会した人たちの合間を縫(ぬ)って、
ウロウロとあるく。



「お嬢さん」


1人の老人に声をかけられた。


私は振り返る。


不思議な雰囲気をまとった、おじいさんだった。


「誰を探しているんじゃ?」


「大切な人です」


声が震える。



「どんな顔だ」


「優しい笑顔の人です」


血の気の失せた、硬くなった手で、

胸元の写真を取り出した。


血と涙ですっかりボロボロな写真を、老人にみせた。



「よく見せておくれ」


老人は写真をゆっくりとみると、顔を歪(ゆが)めた。




「お嬢さん、この人は、もう……


かえってこないじゃろう」



私は「嘘だ!」と大声をだした。


「そんなインチキ言わないで!

あなたに何がわかるのよ!!」



おじいさんは、とても悲しそうな顔をしていた。


「会いたかったのじゃな…?

彼に。だが、彼は戦地で、もう…」



「デタラメ言わないで!!」



私は金切り声をあげた。目の前の老人をめちゃくちゃにしたくなった。



「そしてな、お嬢さん。あなたも。





もう、肉体は死んでいる」





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