【短】相見えるまで





私は、老人をみた。


何を言い出すのだ。


こんなボケた老人にかまっている自分が、

バカらしくなってきた。


「会いたい一心でここまで来たのじゃな。


痛いほど気持ちが伝わるぞよ。


じゃが、あなたはもう、撃たれて、死んだ」



辛かったろう、という老人は、

静かに涙を流していた。



私はその場から去ろうとしたら、老人が裾(すそ)を引っ張った。


「何よ!」


その手をはね返すと、老人はよろめいてこけた。


さすがに起こそうとして屈(かが)むと、

通りすがりの人が、老人を踏んづけた。



私は声をあげそうになったが


しかし、その通行人の足は、


まるで空気のように老人の身体を通り抜けたのだった。




私は唖然(あぜん)として、みた。


「わしもな、この世のものではない。

そもそも、生者には見えぬ」



そう言っている間にも、


私の背中も、道行く人は踏みつけるが、


その靴底は決して私にあたることがなく、身体のなかを通り抜けた。



「そんな…」



にわかには信じがたいものだった。


私の目から涙がこぼれる。


もう、死んでしまったのか。


ここまで、こんなにも頑張ったのに、


私の肉体は、ついてきてくれなかった。


身体を、戦地に置いてきてしまったのだ。



「彼は、もう、先にいっているぞよ。

お嬢さんも、さぁ、早く参ろうか」



おじいさんも、泣いていた。


私は、頷(うなず)いた。


地面に沢山の涙がおちた。





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