ケダモノ、148円ナリ
ケダモノを買いました
「結婚するんだ」
「え? 誰がですか?」
佐野明日実(あずみ)は祖父の代から通っているお店の、大好きなポトフを食べかけた手を止める。
顕人(あきひと)は、
「俺だよ」
と言ったあとで、振り返り、二杯目は違うワインを頼んでいた。
「お前もいるか?」
と振り返り訊いてくるので、
「いえ、いりません」
と言った声は、びっくりするくらい普段通りだった。
心配そうに顕人がこちらを見る。
「お前を残していくことだけが、気がかりだが」
と顕人は、貴方私の親ですか、と問いたくなるようなことを言ってくる。
相変わらず整った顔だ。
家が近所だったせいもあり、小さなときから、少々抜けている自分をずっと見守ってきてくれた従兄の顕人。
この顔を間近に見てきたせいか。
どうしても、理想が高くなり、今まで恋人のひとりも出来ないできた。
「式は来月だ」
「早いですね」
< 1 / 375 >