ケダモノ、148円ナリ
どんな言い訳だ……と貴継は思っていた。
だが、明日実は、おにいさまごめんなさい、と謝っている。
小さなときからの習慣だろうかな、と思った。
鍵を開けて出た覚えはないし、俺たちが帰って来たから隠れるというのも意味がわからない。
『鍵が開いていたが、大丈夫か。
泥棒でも入ってないか?』
と心配してすぐ訊いてくるのが、本来の筋ではなかろうか。
だが、明日実はさほど気にしていないようだった。
相手が、『おにいさま』だからだろう。
これが俺だったら、鬼のように追求してくるだろうにな、と思う。
『そんな莫迦なことあるはずないですーっ』
とか言って。
「おにいさま、ご心配おかけしまして申し訳ございません。
お茶でも淹れますね」
と言いながら、明日実はいそいそとキッチンに行こうとする。
足を引っ掛けてやろうかと思った。
明日実が言ったので振り返り、
「鍵を出せ、稲本顕人」
と言うと、
「持ってない」
と言う。