ケダモノ、148円ナリ
 





 どんな言い訳だ……と貴継は思っていた。

 だが、明日実は、おにいさまごめんなさい、と謝っている。

 小さなときからの習慣だろうかな、と思った。

 鍵を開けて出た覚えはないし、俺たちが帰って来たから隠れるというのも意味がわからない。

『鍵が開いていたが、大丈夫か。
 泥棒でも入ってないか?』
と心配してすぐ訊いてくるのが、本来の筋ではなかろうか。

 だが、明日実はさほど気にしていないようだった。

 相手が、『おにいさま』だからだろう。

 これが俺だったら、鬼のように追求してくるだろうにな、と思う。

『そんな莫迦なことあるはずないですーっ』
とか言って。

「おにいさま、ご心配おかけしまして申し訳ございません。
 お茶でも淹れますね」
と言いながら、明日実はいそいそとキッチンに行こうとする。

 足を引っ掛けてやろうかと思った。

 明日実が言ったので振り返り、
「鍵を出せ、稲本顕人」
と言うと、

「持ってない」
と言う。
< 146 / 375 >

この作品をシェア

pagetop