ケダモノ、148円ナリ
 



 貴継が部屋を去りかけたとき、明日実が机に置いていた携帯が鳴った。

 今、鳴るな。
 明日実が起きるじゃないか、と思い、つい、

「はい」
と出ると、

『あんた、誰?』
と女の声がした。

「あんたこそ、誰だ」

『これ、明日実の携帯じゃないの?』

「俺は明日実の婚約者だ」
と言うとあら、そう、と女は言う。

『じゃ、いいわ。
 ちょっと気をつけてって言おうと思ってたことがあるんだけど。

 夜も一人じゃないんなら、大丈夫ね。

 あんた、誰だか知らないけど、明日実をちゃんと守りなさいよ。

 じゃ』
と電話は切れた。

 だから、誰なんだお前は。

 っていうか、俺に名を名乗れとも言わなかったな、と思いながら、表示を見ると、『鏡花さん』と登録してある番号だった。

 鏡花。

 聞いた名前だな、と思う。
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