ケダモノ、148円ナリ
「はなっ、離してくださいっ。
 私、今日から研修に行くんですっ」

 ほう、そうか、と言いながら、踏ん張る明日実の手を貴継はつかんだままだ。

「初日から遅刻とか、ボコボコにされます」

「ボコボコにはしない。
 評価を下げるだけだ」

「はい?」
と言ったとき、貴継が一瞬、手を緩めた。

 今だっ、と行こうとした瞬間、貴継がまた手に力を入れたので、つんのめる。

 ゴツッとガラスのテーブルで額を打った。

「たーっ!」

「大丈夫か?
 職場でとろくさくて使えそうにないなら、せめて顔は保てよ」

「貴方がつかんでたからですよねえっ?」
と振り返ると、貴継の顔がすぐそこにあった。

 どきり、と身を引いてしまう。

 位置が悪く、今度は背中にテーブルの角が刺さった。

「う……っ」

 背中を押さえて、悶絶する明日実を貴継は、
「阿呆か」
と冷ややかに罵ったあとで、

「お前が悪い。
 恋人を起こすときは、やさしくキスのひとつもするもんだ」
と言い出した。
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