ケダモノ、148円ナリ
「でも、やめてくださいっ」

「いいや、こいつだけは殺しておくっ。
 あの女の居るモスクワに骨だけは送ってやるよっ」

 もふもふの毛布に包んでなっ、と貴継は叫ぶ。

「今送っても受け取り手ありませんっ。
 真冬さん、日本ですっ。

 それに、嫌ですっ。
 貴継さんが刑務所に入るなんてっ。

 貴継さんが居なくなったら、誰がカウンタックを運転してくれるんですかっ。

 誰が炙りサーモン作ってくれるんですかっ。

 まだ使ってない、キャンプ道具も二人で使いたいしっ。
 また一緒に水族館にお父様を見に行きたいですっ」

「いや、うちの父は見せ物とは違うが……」

「行かないでくださいっ。

 私、貴継さんと結婚したいですっ。
 ずっと一緒に暮らしたいんですっ」

 そこで一息ついたら、泣きそうになってしまった。

 貴継が来てくれて、緊張が途切れたのと一緒になって。

 がっちり貴継の腕をつかんだまま、明日実は泣き出す。

「嘘ですっ。
 もう貴方の顔なんか見たくないです~っ。

 なんでこんなに私を振り回すんですかっ。
 貴方と出会ってから、私っ、一時も感情が休まるときがないんですっ。

 なんでですかっ。
 私が貴方を好きだとでも言うんですかーっ」

 ぷっと貴継が笑った。
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