ケダモノ、148円ナリ
「そうか。
 じゃあ、俺が言ってやろうか」
と貴継は明日実の鼻先に人差し指を向け、言った。

「痛いの 痛いのー

 飛んでいけっ」

 ひゅっと指を左に払われ、つい、そちらを見ると、貴継が笑う。

「お前、あっち向いてホイ、いつも負けてただろ」

 そう言ったあとで、貴継は、ゆっくりと口づけてきた。

 子供のころ、あっち向いてホイやってた頃には、自分にこんな瞬間が訪れるなんて思ってなかったな、とぼんやり思う。

「なんだか大人になってしまった気がします」
と呟くと、

「いや、まだキスしただけなんだが……」
と言われた。

「でも、貴継さんは全然ケダモノじゃなかったです。
 おにいさまに比べたら」

「あいつ、なにをしやがった」
と言う貴継に、

「いえ、そうではなくてですね」
と明日実は言う。

「貴継さんは意外と無理強いなさらなかったなと」
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