ケダモノ、148円ナリ
「誰が恋人なんですかーっ」

 そのとき、貴継の唇が触れるか触れないかの位置まで来たので、明日実は慌てて、彼を突き飛ばす。

「駄目ですっ。
 私、誰ともそんなことしたことないんですっ」

 沈黙があった。

 明日実は、ラグを見つめたまま、自分がなにかまずいことを言ってしまったと悟る。

 恐る恐る顔を上げると、立ち上がっていた貴継がこちらを見下ろし、
「そうか、そうか。
 キスもしたことないのか」
と言ったあとで、にんまり笑う。

「それはいろいろと楽しそうだな」
と頭を撫でてきた。

 固まっている明日実を放って、貴継はさっさとカーテンを開けに行く。

「早くしろ、明日実。
 遅刻するだろ」

 いや……今、いろいろやって、私の動きを遅れさせたの貴方ですが、と思ったのだが、やはり、言い返せなかった。





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