ケダモノ、148円ナリ
 





 朝食の材料がなかったので、二人でマンション一階の喫茶店で食べた。

「お前、電車か?」

 ふかふかのバターロールを千切りながら、貴継が訊いてくる。

「ああ、はい」

 じゃあ、駅まで送ってやる、と貴継は言う。

「あ、ありがとうございます」
と言いながら、きちんとすると、やっぱ、格好いいな、この人、と思っていた。

 少し紅茶を飲んで、チーズオムレツを齧って、あとは食べなかった。

「緊張してるのか」
と貴継が笑う。

 その顔はちょっとやさしげにも見えた。

「だっ、だって、初出勤ですっ。
 研修を兼ねたバイトですが、私、今まで働いたことがないのでっ」

「そんなの緊張して初々しいのは、最初の二週間くらいだ。
 すぐにダレて、会社行きたくないとか、みんな言い出すんだ」

 はあ、まあ、そんなものかもしれませんね、と思いながら、今すぐその瞬間にワープしたい、とも思っていた。

「まあ、頑張れ」
と言いながら、貴継が立ち上がり、伝票を取る。
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