ケダモノ、148円ナリ
エピローグ
日曜日。
明日実は、貴継の母と姉と会うことになった。
うーむ。
いまいち、鞄が似合わない。
あのクローゼットの鏡の前で、鞄を持ってみていた明日実は、そうだ、もうひとつあったな、と棚の奥からミントグリーンの鞄を出してくる。
「明日実、早くしろっ」
と玄関先から貴継が叫ぶ。
はーい、と言いながら、鞄の中身を入れ替えようと開けてみた。
うっ、飴とか溶けてる。
最近、使ってなかったらな、と思いながら、とりあえず、ティッシュや溶けた飴を机の上に出すことにした。
机の上には、立派なケースに入ったあのイルカのリングが置かれている。
ティッシュにハンカチに……
ハンカチ、いつのだ、これは。
それと、レシート。
レシート?
「……」
『ケダモノ 148円』
やはり、ケダモノに見える……。
「明日実、早くしろっ」
それを机に置こうとしてやめ、財布にそっと入れた。
あとで貴継さんに見せようっと。
明日実は、目のところが石になっているイルカのリングのはまった手で鞄をつかみ、その部屋を出て行った。
「はーい。
今、行きまーすっ」
完