ケダモノ、148円ナリ
 だからあのとき言ったのだ。

 場所によっては、ちゃんと天野さんと呼べよ、と。

「あ……天野部長」
と青ざめたまま言うと、貴継はあの顔で、にんまり笑って囁く。

「そう。
 わかったか。

 俺はホストじゃない。
 お前の上司だ」

 そこで、よそ行きの顔でにこりと微笑み、貴継はみんなに聞こえるように大きな声で言ってきた。

「よろしく、佐野明日実くん。
 もしかしたら、短い間かもしれないが、人事で頑張ってくれ」

 ひいっ。
 会社でくらい自由になれると思っていたのにっ、と思っている明日実の手を握手するように取り、握ってくる。

 ホールの後片付けをしていた永山という若い男が笑いながら貴継に、
「部長、最近はちょっと手を握っただけでも、セクハラ扱いになっちゃいますよー」
と言っていた。

「そうか、気をつけよう」
と貴継は爽やかに返している。
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