【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
《 1st 》彼とわたし。

episode*01『俺と付き合ってください』



「先輩」


コツン、というカフェオレの缶を置く音と共に、聞こえた愛しい人の声。私は顔を上げ、視線をデスクトップの画面から声の主へと移した。


「お疲れ様です」


視界に映ったのは、眩しい笑顔で微笑むひとりの男性。私は彼を見つめながら、表情一つ変えずに口を開いた。


「ありがとうございます」


それだけ言えば、また視線をパソコンの画面に戻し、山積みの仕事を片付けていく。
カタカタ、と、キーボードを叩く音だけが静かなオフィスに嫌味なほどよく響いていた。


「残業、まだ仕事終わりそうにないですか?」

「はい」

「そうですか。それじゃあ、終わるまで待っていますね」

「お構いなく。終わったなら早く帰ってください」

「……わかりました。先輩も、あんまり遅くならないようにしてくださいね」


「夜遅いと危ないので」とつけたし、心配そうな顔で微笑んだ彼。
少し肩を落としながら、私と彼のふたりだけしかいないオフィスから出て行った。

パタリと、扉の閉まった音を耳にしたと同時に、後悔の波が押し寄せる。


どうしていつも、可愛げも素っ気もない言い方をしてしまうんだろう……。


両手で顔を覆い、盛大な溜息を一つ吐いた。


せっかく、那月君が待っていると言ってくれたのに。
何時ものように、冷たい態度をとってしまった。

那月君、怒っているかな……。

肩を落として、出て行った彼を思い出し再び溜息を零した。


さっきの彼は、私の恋人である那月匡壱(なつき きょういち)君。ふたつ年下の、後輩にあたる。


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