【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
一方後藤くんの問いに対しての正しい答えが見つからず、返事に困って視線を下げた。
確かに、一度別れて、もう一度チャンスをもらうことが出来た。でも今はまた、如何のわからない状態になっている。
後藤くんも、呆れているかもしれない。
こんな子供みたいに、付き合っては別れてを繰り返そうとしてるんだから。
「……すみません、変なこと聞きましたね。俺、用事済ませて戻ります」
口を固く閉ざしたわたしに、後藤くんは深く追求することなく引き下がってくれた。
きっと何も言えなかっただろうから、その考慮に感謝する。
「あの……何かあったら、いつでも相談してください。って、俺なんか役に立たないだろうけど、その……花京院さんが困っていたら、力になりたいです」
後藤くん……。
「俺基本設計部に居ますし!あっ、そうだ!」
何か閃いたように目を輝かせた後藤くんは、スーツの内ポケットからペンと名刺を取り出し、何かを書き始めた。
カチリとペンの先を引っ込める音とともに、その名刺を渡される。
「これ、俺の連絡先です。花京院さんが、誰でもいいから相談したいって気分になった時とかに使ってやってください」
小声でそう言って、後藤君はにっこりと眩しい笑みを向けてくれた。
……やっぱり、後藤くんはモテるんだろうな。
こんなにも優しくて、人の感情に敏感な人。
「ありがとう……ございます」
沈んでいた場所からゆっくりと引き上げられるように、心が軽くなった。