【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。

弱っていたからか、後藤くんの優しさに涙が溢れそうになる。


「それじゃあ、また」

「はい……」


後藤くんは笑顔を残して、オフィスの奥に行ってしまった。

凄く、元気づけられたなぁ。

貰った名刺を見つめ、大切に内ポケットにしまう。


私も、頑張ろう。小さく深呼吸をして、自分のデスクに戻る。

那月くんの方は一切見ず、パソコンの画面に向き合った。今は仕事を片付けるのが先だ。

そう、思ったのに。


「あ、あの、花京院さん」


さっきまで那月くんと話していた女の子が、何故かわたしの方に近づいてきた。

何事かと思い、慌てて顔を上げる。


「は、はい」

「あの……日曜日に金崎さんの慰労会があるんですけど……花京院さん、出席しますか?」


あ、その話か。

さっき、那月くんにも出欠をとっていた。

多分、わたしは誘われている訳ではなく、一応声をかけなければいけないからかけた、という感じだと思う。金崎さんにはお世話になったから、ぜひ顔を出したいけど……。


「ごめんなさい。その日は用事が……」


きっと、私が出席しても場を白けさせてしまう。それに一応、日曜日は空けておきたい。

那月くんとの、約束があるから。

那月は忘れているみたいだし、出席するみたいだけど……わたしにとっては、とても楽しみにしていた日だったから。

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