【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
声が聞こえた方へと、顔を向ける。そこには、感情の読めない表情をした那月くんがいた。
どうしてここに那月くんが?
外回りに行ったんじゃ……。
「那月、なんか用事?」
驚いて声が出なかったわたしに変わって、後藤くんがわたしに向けるのとは違う声色でそう言った。
この2人は、きっと仲がいいんだろうな。
同期っていうより、友人っていう感じがする。ふたりをぼうっと見ながら、そんなことを思う。
「……お前にはないよ」
あれ?
那月くんは後藤くんに目線も向けず、素っ気なくそう言った。それはまるで友人に対する態度ではない。
わたしの方をじっと見たまま、再び口を開いた那月くん。
「今日仕事終わった後、空いてますか?」
仕事が終わった、後?
「は、はい」
会社だからというのもあるけれど、那月くんの態度からいつもはない威圧感を感じ、自然と敬語になってしまう。
「話があるので、空けといてください。俺この後会社出るんで、定時になる頃には戻ってきます」