【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「ど、どういうことですか?」
「え?」
「付き合うのが初めてって……」
後藤くんは稀に慌てふためいたり、動揺したりするけど……ここまで焦っている姿は初めて見るかもしれない。
そう思うくらい動揺している後藤くんの顔をじっと見た後、フイっと視線を下げた。薄れていた羞恥心が戻ってきたのだ。
改めてこんなこと言うなんて、恥ずかしいことこの上ないけど……。
「わたし、今まで恋愛とは無縁の生活をしていて、那月くんが初めての恋人なんです……」
やっぱり、この年齢で恋愛経験が無いなんて、変かな。
だから後藤くんもきっと、驚いているんだと思う。
「……ま、マジ……ですか?」
あんぐりと口を開け、これでもかと驚いたリアクションを見せる後藤くん。
その反応に、恥ずかしい気持ちを煽られた。
「やっぱり、変ですよね……」
きっと後藤くんみたいな人は、いろんな人とお付き合いして、経験も多いだろうから尚更だ。
けれど、どうやら変に思われたというわけではないらしく、慌てた様子で首を左右に振った後藤くん。
「ち、違います!!驚きすぎて言葉が出て来ないだけで……」
気を紛らわすように後ろ髪を掻いた後藤くん。なぜかふぅ……と胸をさすり、心を落ち着かせている。
「あの……本当に一度も、付き合ったことないんですか……?」
念を入れるように聞かれて、もう一度頷いた。
「はい。女子校育ちで、男性の友人もいなくて……正直、手を繋ぐのも那月くんが初めてだったんです……」