【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
思い出しただけで、顔が赤くなってしまう。初めて繋がれた時は、心臓が壊れそうなほどドキドキした。
改めて思うと、手を繋ぐくらいでキャパオーバーになるわたしなんて、重たくてめんどくさい女だと思う。
「那月くんにも幻滅されるんじゃないかって考えたら、言えなくて……」
きっと本当のことを言ったら、もっともっと面倒になって、那月くんに呆れられてしまう。
「え!言ってないんですか!?」
後藤くんは、よほど驚いたのか前のめりになって聞き返してきた。さっきから驚いている反応ばかり返ってくるけど、そこまで驚愕すること?
「はい」
不思議に思いながらも、こくりと頷く。
「本当にわからないことだらけで、一般的な恋人同士がどのような感じなのかもわからなくて。だからきっと那月くんのことも怒らせてしまったんだと思います……」
スカートの上に乗せた手を、ぎゅっと握り合わせた。
思い返せば、那月くんが気色ばむことはなかったけれど、わたしの経験の無さから不満を感じさせてしまったことは幾度もあったと思う。
心当たりなら、幾つもある。
どうしよう……今日、決定的な話をされたら。
考えるだけで恐ろしくて、握り合わせた手にさらに力を込めた。
「あの、それ絶対誤解してますよ」
……え?
「誤解?」
後藤くんの言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
視界に映った後藤くんは、何か葛藤しているのか、難しい顔をしていた。