【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



「……なんか、また敵に塩を送るみたいで嫌なんですけど……那月に言った方がいいです」


敵に塩?その言葉に対して誰が敵なのかどの台詞が塩に当たるのかはわからなかったけれど、考えてもいなかった提案に息を飲む。

言っても……どうしようもない気がする。むしろ、言った方が幻滅されてしまうだけで、悪い方向にしか進まないと思っていた。


「いや……でも驚きました……」


黙り込んだわたしを見て、言葉を続ける後藤くん。


「僕は別に、噂とかはどうでもよかったんですけど、花京院さんは凄く魅力的な人なんで……きっといろんな経験がおありなんだろうなと……」


魅力的だなんて、わたしには相応しくない言葉だ。

お世辞を言わせてしまっている状態に、申し訳なさすら感じる。


「……正直、那月が羨ましすぎます」

「え?」

「どんなことに関しても、自分が初めてだなんて、男はやっぱり嬉しいですよ」


……そう、なのかな?

そんな意見は聞いたことがなく、素直に驚く。

それはマニアックな方だけなんじゃないかな?とも思ったけど、後藤くんの口調からして本心で言っているように聞こえたので、参考として受け取ることにした。


「それが魅力的な人なら尚更。それだけ大事にしなきゃって思うだろうし、幻滅なんてするはずないです」


後藤くんの笑顔はすごい。なんだかその笑顔を見ていると、どんなことでも大丈夫な気がしてくる。


「だから……言った方がいいと思います」


こんなふうに思う人もいるんだということに、感動にも似た感情が湧き上がった。

後藤くんは、本当に素敵な人だと改めて思った。



< 113 / 220 >

この作品をシェア

pagetop