【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「……ありがとうございます。後藤くんにそう言ってもらって、凄く安心しました」
いつの間にか、握り合わせていた手が離れていた。
感じていた恐怖や緊張が、そっと解けていくように。
「今日話があるって……もしかしたら、別れ話かもしれないんですけど……正直に、言ってみようと思います」
どんな反応が返ってくるのか、相変わらず怖くてたまらないけど、それでも正直に話したい。
わたしはこんな女だって、ありのままを伝えたい。
例え那月くんとの恋人関係が解消されることになっても……今まで隠していたことを、知ってほしいと思えた。
「頑張ってください」
後藤くんの言葉が、またわたしに勇気をくれる。
もし後藤くんが何かに悩むようなことがあれば、今度はわたしが相談に乗らせてほしい。
人生経験も浅くて、後藤くんみたいなスマートなアドバイスは出来ないかもしれないけど……そう思うくらい、後藤くんへの感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。
「……っ。あの、もし……別れるようなことがあれば……」
ん?
何か言いかけた後藤くんの、次の言葉を待つ。
しかし、後藤くんはふっと諦めたように笑った後、首を横に振った。
「いえ、やっぱり何もありません。応援してます。これ以上、花京院さんの悲しい顔は見たくないので」
きっと他の女の子だったら、恋に落ちてしまいそうな台詞だな。
「ありがとうございますっ……」
「……っ」
そんなことを思いながら、私は驚くほど自然に笑みが溢れていた。