【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
【ロビーの喫煙室前で待ってます】
スマホを伏せて、わたしも残りの仕事を急いで終わらせた。
* * * *
少し定時を過ぎてしまって、待ち合わせ場所へと急ぐ。
エレベーターを降りて那月くんの指定場所へと急ぐと、ソファに座ってノートパソコンを開いている那月くんの姿が見えた。
まだこっちに気づいていない那月くんの姿を見て、一旦立ち止まり深呼吸をする。
すぅ……はぁ……。よ、よし。
「お、お待たせしましたっ……」
会社の中なので、一応敬語で声をかけた。
那月くんはちらりと視線を私に向けたあと、ノートパソコンを閉じて立ち上がる。
「お疲れ様です。……行きましょうか」
「は、はい」
車でどこかへ行くのかな?
わからないから、黙って那月くんに着いて行く。
終始無言のまま駐車場に向かい、那月くんの車に着いた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
態度は冷たいけど、いつも通りエスコートはしてくれるんだ……。
ドアを開けてくれた那月くんにお礼を言って、助手席に乗り込む。運転席に乗った那月くんは、無言のまま車を発進させた。
車内には、気まずい空気が流れていた。