【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



嫌な沈黙が続き、ごくりと息を飲む。

これ以上の気まずさは……耐えられない。


「あの、話っていうのは……」


自ら沈黙を破るように、口を開いた。


「さ、先に、私から話してもいいですか?」


那月くんの話を聞くよりも先に、私も……。


「那月くんに……話たいことがあるんです」


この前拒んでしまったことへの謝罪と……私の、ことを。

今まで目を合わそうとしなかった那月くんが、感情の読めない瞳で私を見た。


「後藤とのことですか?」

「え?」


後藤くん?

どうして、ここで後藤くんの話が出てくるの?


「最近後藤と仲いいんですね」


ハッと、かすれた笑みをこぼした那月くん。

なんだか投げやりの態度や、優しさのこもっていない声色。


「俺よりあいつがよくなりましたか?」


何を、言っているんだろう。

私がそんなふうに思わせてしまった?
でも、心当たりがあるとしたら、さっき話しているのを見られたことと、後藤くんが話を合わせてくれたことくらい。

たったそれだけのことで、そんな言い方をされないといけないの、かな。


「もう俺、いりませんか?」


那月くんには……私の気持ちはなにひとつ、伝わっていなかったのかな。

そう思うと、虚しさで心が満たされた。


もう……話したくない。


「いらないのは、那月くんの方じゃないんですか?」

「……え?」


私の言葉に、那月くんが一瞬目を見開かせた。

< 119 / 220 >

この作品をシェア

pagetop